【声マガ・インタビュー】加藤 渉

インタビュー

PROFILE

アイムエンタープライズに所属する加藤かとうわたるさんは、東京都出身の7月17日生まれ。『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』(愛城恋太郎役)、『勇者が死んだ!』(トウカ・スコット役)、『ダンジョン飯』(カブルー役)、『アオアシ』(朝利マーチス淳役)等に出演。2024年のアニメ『怪獣8号』では市川レノ役で出演。
「自分の初期値がそもそも低いです」と落ち着いた声で涼やかに語る加藤さん。アニメ収録の期間中は、演技について考えるあまり、自宅では、アップテンポな音楽で気分を上げていると言います。そんな加藤さんに、声優をめざしたきっかけや日本ナレーション演技研究所(以下、日ナレ)で学んだこと、今後の目標を語っていただきました。

クラス全員に「良い」と言われ、声の仕事に興味を持つように

声優という仕事を意識したのはいつ頃ですか?

小学生の頃、歴史が好きで、『戦国無双』や『三國無双』など、歴史上の出来事や人物をモチーフにしたアクションゲームが好きになってよく遊んでいました。当時、絵を描くことも好きだったので、それらの作品のイラスト集を買ったら、巻末にキャラクターを演じている声優さんのコメントが載っていて、それで声優という仕事があることを知りました。

では、声優をめざしたきっかけを教えてください。

小学校の道徳の教科書に『キャプテン』という漫画が載っていて、先生が「誰に音読してもらったらいいと思いますか?」と聞いたら、クラス全員が僕がいいと言ってくれたことがきっかけです。恥ずかしいけど、自分の声は目立つんだってその時初めて意識して、ひとりでこっそりアニメの声真似をしたり、漫画を音読したり、声優の仕事に興味を持ち始めました。

日ナレに入所したのはいつですか?

高校2年の4月でした。実は、そこに至るまでに、僕は一度、声優になる夢を諦めているんです。中学時代に声優になりたくて、親に黙って日ナレとは別の声優養成所の体験レッスンを受けたのですが、優秀者に選ばれなかったし、自分は声優に向いていないし、なれないだろうなと思ってしまって。それで、高校に上がった時に、忙しい部活に入らないとこのまま貴重な学生生活を無駄にしてしまう気がしたので、運動が苦手だった僕は演劇部に入って、そこからお芝居に興味を持つようになりました。高1の時に今後の話を親に相談したら親から「やりたいことをやってみたら?」と言われて、声優になりたかったことを思い出して、「養成所に行きたい」と親にお願いしました。

斜に構えながらも「クラスで一番になる」にこだわった日ナレ時代

入所した頃の生活パターンを教えてください。

学校の部活は毎日出て、日曜は日ナレに通っていました。当時は、本当に真剣だったなって思います。部活しか自分の取り柄はないと思っていたところに日ナレが加わって、ここで必死にやらないと自分には他に何もないんだからみたいな気持ちで、レッスンと部活に全力投球していました。

入所した当時の日ナレの印象はいかがでしたか?

最初は発声とかかつ舌とか基礎的なレッスンばかりだったので、つまらないと思う時もありました。でも、そのフラストレーションが逆にモチベーションにつながりました。この程度のことだったら、クラスで一番にならなきゃダメだってすごく考えるようになりました。それには僕の当時の精神状態も影響していたと思います。クラスには年上の方とか、僕が大人って感じるような人たちが多かったのですが、そういう年代の方々と関わるのは日ナレが初めてだったので、しかも、当時の僕はすごく他人を警戒するというか、年上なんかに負けないという気概というか鬱屈とした感情があったんです。でも、その一方で、そういう方々と一緒に稽古する中で、僕は初めて協調性とか社会性について考えるようになりました。日ナレに通ったことで、凝り固まっていた概念を取り払う術を学び、尖っていた自分がだんだん丸くなって、人間として成長できた気がします。

講師の方から言われた印象に残っている言葉はありますか?

いろいろな方から言われたのが、「敬意を持ちなさい」ということでした。当時は、「敬意って感じて出るものであって、持とうとして持つものじゃないのでは?」などと捉えて反発していましたけど、今になって、その言葉の意味がすごくよくわかるようになりました。声優の仕事って、作品制作においてほんの一部でしかなくて、その作品を創り上げるために本当に大勢の方が働いていらっしゃる。「敬意を持つ」というのは、その事実を解釈するすごく大事な言葉なのではないかと思いますし、周りがいてこそ、自分がいる。そのことを意識しながら過ごすのはプロとしてとても重要なことだと感じています。

初めてオーディションに受かったラジオの仕事。評価が大きな自信に

事務所に所属したのはいつですか?

基礎科の終わりに所内オーディションに合格して、アイムエンタープライズに所属しました。

所属後の生活サイクルはどのようなものでしたか?

所属後すぐ、高3の10月に高校を中退しました。その後は、日ナレの本科のレッスンに通いながら、仕事のオーディションを受けながら、通信制高校で高校の卒業資格を得て、大学を受験しました。でも、翌年の10月に大学も中退して、1浪して別の大学に入り直して……、学生生活がめちゃくちゃ長かったです(笑)。

大学を受験せず、声優の道一本でいこうとは思わなかったのですか?

所属してすぐの頃はそう思いました。でも、両親に「大学には行ってほしい」と言われましたし、自分もすぐに仕事をしていけるようになれるとは思わなかったので、学生の道を選びました。実際、所属してすぐの頃は仕事が全然なかったです。で、やっぱり学生じゃないほうがスケジュールが組みやすいし、仕事も入れやすいのではないかと考えて、時間割表みたいなものを作って事務所に提出しました。「ここからここまでは授業ですけど、この後は空いているので新宿になら30分で着けます」みたいなことを視覚的にわかりやすく表して、仕事をもらえる工夫をしていました。

最初のお仕事は何でしたか?

所属1年目の高3の時にいただいたアプリゲームの収録でした。一人で収録するものだったので、これはお芝居なのかなって思いながら、いかにそれっぽく読むかしか考えられなくて、終わった後は、商品として使える声になったのかとか、お金をもらうのにふさわしい仕事ができたのだろうかとかいろいろ考えてしまいました。

プロとして自信につながったお仕事はありますか?

初めてオーディションで受かったのは、天津・向(天津飯大郎)さんのラジオ番組の『新人声優 四つどもえラジオ』です。オーディションで「モノマネできますか?」と言われて、大河ドラマの『篤姫』のワンシーンをひとりで演じました。向さんがそれをすごく面白がってくれて、向さんが構成作家兼出演者として僕という人間を深掘りしていこうみたいな形のフリートーク番組への出演が決まりました。当時、大学生で仕事はこの1本だけだったのですが、日ナレ時代にどうすれば人より目立てるかを考えていたように、デビューしてからの僕は、自分の容姿や演技に自信がない分、自分が人に肯定してもらえて、受け入れてもらうためにはどうしたらいいかを常に考えながら過ごしていました。それだけに、毎回、収録に向かう時は今日は何を言ったらウケるかなとか考えていましたが、この番組への出演で、向さんに評価され、肯定してもらえたことは、声優として大きな自信につながった気がします。

出会いによって大きく成長できたのですね。

この番組をきっかけに、向さんとは今も一緒に食事に行かせていただいたりしているのですが、20歳になった時、向さんと番組スタッフの方と事務所の同期がお祝いをしてくれて、向さんから20年物のワインをいただきました。その場で開けようとしたら、「加藤くんが主役を取った時に開けてみんなで飲めたらいいね」と言われて、開けるに開けられなくなって(笑)。それから5年後に初めて主役を取った時、そのメンバーで再び集まって、25年物になったワインをみんなで開けて飲みました。このことは、自分の声優人生の中のすごく象徴的な出来事になっていますね。

作品全体のことを考えられるプロが理想の声優像

そのほか、印象に残っている仕事はありますか?

毎週更新されるゲームの『ルチアーノ同盟』という作品に指名していただき、出演したのですが、声優が出演する生放送番組も別途作られていました。その番組に出演した時に、僕が演じたスリーという役柄に対してすごくたくさんの人が好感を持ってくださっていることを肌で感じることができて、さらに、クラスで雑談しているような感じで、視聴者の方とリアルにお話することもできたので、お客さんがどう解釈しているのかを吸収したうえで、自分はこう表現してみようかなと思ったり、お客さんがいることによって演じる心情が変わっていくという経験をした印象的な作品でした。先のラジオ番組もですが、僕ってやっぱり面白がってもらうことで、より調子に乗れる人間なんだなという自覚を持つ貴重な機会でもありました(笑)。

ご自身の考える声優の仕事の魅力について教えてください。

僕はよく“実感”という言葉を使うのですが、この仕事をしていなかったら知ることのできなかった感情や経験は実に多いと感じています。僕のお芝居の理想は「そこに行く」という状態なので、その世界の中で、その役として、その場にいるという“実感”を自分がどう得られるか。いろいろな役をやらせていただく機会が増えて、その役ごとにそれぞれ住んでいる世界があって、生きている世界があって、そこに「行けた」と思える瞬間は本当に楽しいと感じます。

将来、めざしている理想の声優像を教えてください。

所属して10年目を迎えて、プロデューサーの方やメーカーの方をはじめ、いろいろなセクションの方とお話する機会を持ったことで、今は、現場全体を見られるプロになりたいと思う気持ちが強くなりました。例えば、困っている人や、つまずいている人がいたら、手を差し伸べてあげられることもひとつですし、声の収録だけでなく、作品全体において、自分がどう貢献して、盛り上げていけるのか。そういうことまで考えられる人間になりたいと思っています。

最後に声優をめざしている方へメッセージをお願いします。

僕は東京都出身ですが、環境的に日ナレに通いづらい人もいると思います。でも、親に甘えられる状況であれば甘えて、自分の環境を最大限生かしてトライしてほしいと思います。それから、声優になりたい以外の気持ちや時間も大事にしてほしいと思います。そういう時間や実感が回りまわって声優になれた時に活きてきます。反対に、それがないと声優になった後、自分から出せるものや表現できるものがなくて、自分は空っぽなんだと思う事態になりかねません。僕がそうでした。声優の道しかないと思って養成所時代を過ごし、学校の勉強もちゃんとせず、中退を繰り返した僕は、所属後、自分の中に何もないと感じて、一時期、枯渇を感じてしまったことがありました。その体験があるからこそ、皆さんには常に声優のこと以外でも、自分に蓄えられる経験や得られる実感を集めておいてほしいと思います。生きていくうえで、自分の人生をどうやって豊かにしていくかを考えていた方が前向きになれますしね。人間、とかく安易な過ごし方をしてしまいがちですけど、人と会えるなら会った方が自分の世界を広げられます。僕自身、社交的になったことで、感じることが増えて、友達も増えて、仕事も増えたので、そういう意識も大切に持ってほしいと思います。

プロフィール

加藤かとう わたる
所属事務所:アイムエンタープライズ
主な出演歴
怪獣8号(市川レノ)
君のことが大大大大大好きな100人の彼女(愛城恋太郎)
勇者が死んだ!(トウカ・スコット)
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